22年秋公布に向け、トップランナー基準等見直しへ
国土交通省は29日、脱炭素社会に向けた住宅・建築物における省エネ基準の見直しについての議論を開始した。17日に公布された「脱炭素社会の実現に資するための建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律等の一部を改正する法律」のほか、今後の住宅・建築物の省エネルギー対策のあり方(第三次答申)および建築基準制度のあり方(第四次答申)を踏まえ、住宅・建築物の省エネルギー性能等に係る基準を整備する。
検討事項は、(1)分譲マンションの住宅トップランナー基準、(2)大規模非住宅建築物の省エネ基準の引き上げ、(3)共同住宅等の外皮性能の評価単位の見直し、(4)住宅の誘導基準の水準の仕様基準(誘導仕様基準)の新設、(5)共同住宅等の外皮性能の評価方法の見直し、(6)住宅の仕様基準の簡素合理化・誘導仕様基準、(7)共同住宅等の外皮性能に係るZEH水準を上回る等級。
(1)〜(4)は、同省の社会資本整備審議会建築分科会建築環境部会建築物エネルギー消費性能基準等小委員会および経済産業省の総合資源エネルギー調査会省エネルギー・新エネルギー分科会省エネルギー小委員会建築物エネルギー消費性能基準等ワーキンググループで検討。(5)〜(7)は国交省の小委員会のみで議論する。いずれも委員長・座長は田辺新一早稲田大学理工学術院創造理工学部教授。オブザーバーとして、不動産・住宅、建設業界の団体が参加している。
今回開催の合同会議では、事務局が(1)〜(7)についての基準案を示した。(1)は、建築物省エネ法の改正に伴い、住宅トップランナー制度の対象に分譲マンションが追加されたことを踏まえ、分譲マンションの住宅トップランナー基準の水準および目標年度を設定する。「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」のとりまとめ(2021年8月)、大手事業者の分譲マンションのZEH化に関する動向を踏まえ、より早期に省エネ性能の引き上げを図るべく、「目標年度26年度、BEI=0.8、強化外皮基準」を示した。対象とする事業者の年間供給戸数に係る要件は、分譲マンションの供給戸数のおおむね半数がカバーされる程度の水準として、年間1,000戸以上とする。
(2)は、30年度以降新築される建築物にZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能を確保するとの目標を踏まえ、適合義務化が先行している大規模非住宅建築物の省エネ基準について、24年度以降、各用途の適合状況を踏まえ、用途に応じてBEI=0.75〜0.85に引き上げることとする。(3)は、住戸間の熱損失の取り扱いについて、技術情報を改訂し、隣接空間が住戸の場合の温度差係数を「0」に見直す。ただし、温度差係数を「0」とするにあたっては、中住戸と妻側住戸で求められる窓や外壁等の性能に極端な差が生じないように一定の要件を求めることとする。
(4)は、建築物省エネ法に基づく誘導基準、低炭素建築物・長期優良住宅の認定基準について、ZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能に引き上げることなどを受け、特に着工件数の多い住宅について、省エネ計算によらずZEH水準の省エネ性能(誘導基準等)の適合確認が可能となる仕様基準(誘導仕様基準)を設定する。誘導仕様基準は、現行の省エネ基準の仕様基準と同様、建築物エネルギー消費性能基準等を定める省令において新たに位置付け、具体の基準は、住宅部分の外壁、窓等を通しての熱の損失の防止に関する基準および一次エネルギー消費量に関する基準に追加、または誘導仕様基準告示を新設し、定めるとした。
(5)は、(3)の内容を踏まえ、性能基準における暖冷房設備の基準一次エネルギー消費量の算定に用いる共同住宅等の外皮性能について、共同住宅等のすべての住戸が単位住戸の外皮基準を満たすことを前提に、住戸間の熱損失の合理化を踏まえた整合的な見直しを行なう。
(6)は、共同住宅等の外皮性能の評価方法の見直し等を踏まえた外皮仕様基準の見直し、誘導仕様基準の新設などを示した。共同住宅等の外皮性能の評価方法の見直しを踏まえ、外皮仕様基準についてこれと整合的な見直しを行なう。市場環境の進展を勘案し、建て方別(戸建て/共同)の外皮仕様基準を設定することで、基準を精緻化した。ZEH基準の水準の省エネ性能を容易に評価・判定ができる、誘導仕様基準を設定する。
(7)は、住宅品確法に基づく住宅性能表示制度に関し、戸建住宅と同様に、共同住宅等について、ZEH水準を上回る断熱等級(等級6、等級7)を新設。各等級の水準は、住戸間の熱損失の合理化と暖冷房にかかる一次エネルギー消費量の削減率(おおむね30%削減、おおむね40%削減)を踏まえ、戸建住宅の等級と同等の水準とする。
委員やオブザーバーからは、(1)について「大手だけでなく、中小企業でも対応できるよう、市場全体を見て決めるべき」「省エネ性能向上に伴って価格高騰は避けられない。補助金制度の充実等、支援策を講じてほしい」等の意見が挙がった。(2)に対しては、「寒冷地等での検証も踏まえて算出すべきでは」「用途次第では目標数字の達成が難しいのでは。緩和措置が必要」など、(6)に対しては「用途間のトレードオフができないことが課題」「床暖房や家庭用燃料電池発電システム等、良質な住環境に必須とされる設備も対象とすべき」などの指摘がなされた。(7)については、「共同住宅における等級6・7は、現実離れしている」という見解もあった。
7月11日に今回の意見を反映した基準案を議論し、最終とりまとめを策定。パブリックコメントを経て、22年秋に公布する予定。施行は、(3)〜(6)が22年秋、(1)と(7)が23年春、(2)が24年春を見込む。
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